|
わが国の中小企業の海外進出は、製造業を中心に増加しています。
日本政策金融公庫がまとめた「中小企業の海外進出に関する調査」結果等をみてみます。
海外直接投資の実施件数は、製造業を中心に増加傾向にありますが、最近は非製造業も増加しています。「先進国の需要が旺盛、あるいは今後需要が見込める」ことを理由にアジアははじめとした海外直接投資が行われており、このことは日本の市場が飽和状態あるいは成長性が見込めないことを意味しています。 |
◆中国進出が圧倒的 |
海外直接投資の推移をみると、1990年代以降増加傾向にあり、2011年の進出数は54件と最も多くなっています。地域別では、「アジア」が最も多く、次いで「北米」「その他」「欧州」の順。アジアの中では、中国が圧倒的に多く、2011年の進出累計件数は218件とアジア全体(385件)の56.6%を占めています。
海外直接投資先での問題点を業種別にみると、製造業では「外国人従業員の労務管理が難しい」が37.0%で最も多く、次いで「現地の経営管理者不足」(28.9%)など人的問題がほとんど。非製造業では、「現地の規制や会計制度への対応が難しい」が34.5%でも最も高く、以下、「現地での営業活動がうまくいかない」「為替相場の対応が難しい」「人件費が計画より高い」などが挙がっています。
今後、海外直接投資の予定がある企業は9.4%で、そのうちの4割が2〜3年以内に実施すると回答しています。 |
◆自動車産業の空洞化 |
自動車産業の空洞化が大きな問題となっています。
自動車産業は、今までの日本経済を牽引してきましたが、最近では国内の生産能力の削減に着手しています。
最大手のトヨタは2014年までに年間生産能力を今より50万台少ない310万代程度まで減らす予定です。日産も2012年7月から主力拠点の追浜工場の生産ライン2本のうち1本を休止。マツダやスズキも海外での生産能力増強に拍車をかけています。
この背景には、円高で輸出車の採算が悪化し、「国内生産のうち、ほぼ半分を輸出にあてる」という従来の事業モデルが通用しなくなったことや人件費などのコスト面などが挙げられます。
個々の企業の経営判断としては、国内の余剰能力の削減は正しい判断といえます。
世界の自動車メーカーの主戦場は、日米欧の先進国から中国やインドなどの新興市場に急速に移ってきているからです。
安価な車が求められている新興市場に、円高でなくても日本からの輸出車を持ち込むのはコスト的にかなり困難です。現地調達や現地生産を拡大する流れは今後も続きそうです。
問題は、国内の雇用や産業集積に及ぼす影響です。
日本は「ものづくり大国」と言われながらも、雇用に着手すれば、製造業の就業者はピークの1992年の1569万人から、2010年には1049万人まで減り、3分の2の規模にまで縮小しています。
このなかで頑張っていたのが自動車産業です。電機や繊維はいち早く海外展開し、国内雇用を絞り込みましたが、自動車産業は現在100万人強で1985年頃とほぼ同じ規模の雇用を維持しています。
加えて、多数の素材や部品を扱う自動車は産業集積の要ともいえる存在であり、これを取り巻く鉄鋼や工作機械メーカーの競争力も高めました。
このような点からも、自動車産業の空洞化はさけたいところです。
その策として、日本の工場を、世界の工場を生産技術面で支えるマザー工場としての役割を強める方法が着手されています。トヨタは、豊田市の元町工場で需要の変動に合わせて生産を増減できる伸縮自在なラインを開発中です。この方式は、子会社の国内工場に続いて、中国やブラジルなど新興国の工場にも導入されています。
また、新たな設計開発の手法にも力を入れて取り組んでいます。
世界各国で効率的に生産するため、複数の車種でできるだけ部品を共通化してコストを抑える一方、デザインや性能など商品化に繋がる部分に重点的に資金や人材を振り向けています。日産では、追浜工場新しい生産技術を開発し、海外工場に展開させる機能を強化しています。
素材や部品の集積などサプライチェーン(供給連鎖)の総合力が日本のものづくりの強みであり、足元の苦境に対応するあまり、海外移転や海外部品の採用拡大を続ければ製造ノウハウや人材が枯渇し、回りまわって自らの首をしめることにもなりかねません。
各社は海外展開を図りつつも、国内でも研究開発や生産技術の先端拠点を拡充し、一定の事業基盤を維持しています。
なお、下請け中小企業で、親企業の海外進出にどうしてもついていけない場合には、中小企業同士の共同化や現在の技術の応用、大学や研究センターとの連携、地方公共団体等の支援などを活用していきましょう。
|
|
次 へ
|