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〜 社長の器 〜
又、大型倒産、会社更生法の申請である。あの松下、パナソニックも巨額の損失が予想され、人心一新、社長交代である。会社はトップの器以上にはならないとよく言われる。「トップの器」を意識しているトップを持つ会社は倒産には至らないのではないかと思う昨今である。最近、この種の報道により感ずるのは、近代組織論に基づいて、トップは一部を担当しているだけ、いわば、組織ピラミッドの頂点に位置していただけであって、経営者の器など意識せずに経営してきたものと感ずる。「トップの器」の発想は、東洋の組織論からの発想である。組織発展、衰退はトップ次第、部門発展も部門長次第であるとの発想である。トップが上部に置かれるピラミッドをひっくり替えして、トップが下にくる、トップがどんぶりのようなイメージだといわれる。一般社員は一番上にくる。トップの器(価値観や思想)次第で、社員の活動が活発になったり、不安定になったりである。
そこで、社長の器を決定づけるのは何か、宋文洲(ソフトブレーン創業者)のお考えを拝読してみた;
『意欲が「社長の器」を決める。』
日本では「器が大きい」というと、「素地が優れた人」や「成長の余地が多い人」という印象があります。分かりやすく言えば、才能が豊かで、大物になる条件を持っているということです。しかし、漢字の「大器」には、そもそも「様々なものを収納する」という意味があります。その器とは腹のことであり、心のことです。中国では「宰相の腹の中を船が走る」ということわざがあります。指導者の最も重要な条件とは、広い心で様々な人材や意見を収納することです。
「三国志」にはこんな話があります。魏の曹操軍が劣勢を挽回し、敵を破った後、押収した敵の書類から自軍の将校が送った、投降を探る内容の手紙を多数見つけました。部下がそれを報告し処理を仰いだ際、曹操は「全部焼け」と命令しました。戦いの真っ最中敵に投降をほのめかすというのは、典型的な裏切り行為です。そんな部下が自分の周囲にいると知るのは恐ろしいことです。普通であれば、怒り狂って制裁するでしょう。曹操がそうしないのは、部下たちに自分の腹の広さ、器の大きさを見せたかったからです。器の大きさを示すことによって、多くの部下が「ほかのトップは、とてもこんなことをしてくれない」と思うようになりました。だから魏は戦えば戦うほど勢力を増し、最後は天下の盟主になったのです。嫌なことをされても嫌な顔をしない。失敗した部下に対してその失敗を追求しない。反対意見を言われても静かに聞き入れる。けんかしても数時間後にはコロッと変わって笑ったりする。そんなリーダーがいたら「付いていきたい」と部下が思います。
だから様々な有能な人材が集まり、安心して頑張れます。なぜ優れたリーダーは、そんなことができるのでしょうか。それは人格・人柄がいいからではありません。我慢できるからです。では、なぜ我慢できるかというと、良いリーダーは、目的を達成しようという意欲がとても高いからです。曹操にも当然人並みに猜疑心や嫉妬心、復讐心があったことでしょう。それでも部下の裏切りに対して制裁せずに、投降をほのめかす手紙を焼くよう命じたのは、彼はどんな条件であっても、何が何でも天下を取るという強い志があったからです。志とは目標への執着心であり、達成しようとする決意のことです。その志を実現するための道具が器であり、忍耐力にほかなりません。「器の大きな社長」とは、別に聖人君主ではありません。志を持ち、その志を必ず達成しようという意欲がある人です。その意欲こそが事業を大きく育てるのです。
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