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月刊 経営一番

〜日本文化に熱狂する中国の若者たち〜


・日本の漫画を見て育った若者たち
・国民の理解と支えが必要
・日本文化を体感したい読者は増えている

編集後記
 〜【今日は何の日】9月1日〜



業績31の原理

 経営一番 NO.235  2014年9月
〜日本文化に熱狂する中国の若者たち〜
 いま中国と日本は、政治的にはかつてないほど悪い関係にあると言わざるを得ない。しかし、中国の若者たちは、実は日本に対して熱い関心を寄せていることを、ご存じだろうか。

◆日本の漫画を見て育った若者たち
 私は大学教員の傍ら、ある中国の雑誌の主筆を務めています。コンセプトは日本文化の紹介で、1冊ごとに1テーマを決めて、できるだけの情報を網羅した“事典”のような月刊誌です。日中関係が悪化し、世論調査で両国民の8割以上が相手の国を「嫌い」と感じている時代に、制作した私たちでさえ驚くほど売れている雑誌。それが、『知日』です。
 創刊は2011年1月。創刊号のテーマは1冊まるごと「奈良美智」。世界的にも評価の高いポップアート作家・奈良さんのキャラクターを表紙にしました。同年中に、女子高生からCA、巫女、剣道の胴着姿、秋葉原のメイドまで、あらゆる制服を網羅した第2号「制服」特集以下、第3号「美術館」、第4号「書之国」を刊行できました。とりわけ、第3号の付録とした「村上春樹の心象風景」は大きな反響がありました。
 『知日』はなぜ受け入れられたのか。言い換えるならば、なぜ中国の若者は日本文化を知ろうとするのか。
 1960年代生まれの私の世代は、アメリカ一辺倒の時代で、留学先といえばアメリカで、私のように日本に来る変わり者は少なかったのです。しかし現在は、中国の子どもは小さい時から日本の漫画やアニメを見て育ちます。日本文化というものへの親近感は非常に強い。ただ、それは日本という国そのものへの憧れではない。いわば、現実の日本、いま私が暮らしている日本という実像に直面するのではなく、日本文化を表現する虚構を通して、日本を理解していると思うのです。その意味では、『知日』は虚構を提供しているともいえます。
 典型例を挙げるならば、宮崎駿さんのアニメーションを見て、「ああいうシーンが見たい」というイメージを持って実際に日本へ探しに行くのです。それも、たとえば『千と千尋の神隠し』に出てくるような温泉旅館を探しに、長野の山奥まで出かけて行ったりする。
 私が教えている1990年生まれの中国人留学生も、あだち充さんの『タッチ』を読んで、「ああいう青春に憧れる」と言う。でも、中国で野球はそれほど人気がないので、「野球を知っているのか」と聞くと、「知らないけれど好き」と、物語に心を打たれている。そして、日本に来て、甲子園に行くんです。

◆国民の理解と支えが必要
 反日という動きがなかったとしたら『知日』がここまで売れることはなかったでしょう。非常に不謹慎な言い方ですが、反日デモが起これば起こるほど、私たちの雑誌は売れるのではないか。こうした現象が中国にはあるのです。ですから、いまもチャンスは続いているのです。最初に述べたように政治問題は扱わないので『知日』は中国の雑誌分類では「文化、旅行」についての雑誌となっています。だから、当局から何か言われることも、現在のところ皆無です。
 日中国交が回復して以降、80年代というのは、3000人の日本の若者が中国に行くなど、関係が良かった時期です。しかし、よくよく考えてみると、その頃、『知日』に類するような雑誌はなかった。関係が良かったのに、日本のことを深く知ろうという中国の若者の動きがなかった。それから30年。現代の若者はどうか。象徴的なエピソードがありました。反日デモが激しかった時期に、「鉄道」特集が瞬間的にネットショップのアマゾン中国の1位になったのです。これがいま中国で起きている現象なのです。
 そして、彼ら中国の若者は、日本へとやってきています。これも30年前には見られなかったことです。そして、巷間言われているように、「トイレがきれい」「日本人は行列にしっかり並ぶ」などの文化の違いを発見し、「いただきます」や「ごちそうさま」といった言葉の美しさ、その背景にある謙虚さ、感謝の美徳に感動したということが、中国版ツイッター「微博」に投稿されています。
 私も大学の教壇に立っていると、中国の積極的で自己発信に長けた若者とは対照的な日本人の若者に相対します。たとえば、日本人は教室の真ん中に座りません。ほとんどが端っこと後ろに座ります。挙手して質問する学生も滅多にいません。授業に関心がないのかと思っていると、レポートは存外にしっかりとしたものを書き、質問も付されていたりする。つまり、万事が控えめなのです。私はこれを悪いことだと思わない。良いとか悪いとかではなく、日本人の気質なのです。そして私はそういう日本人の良さにずっと触れてきました。
 著書にも記した古い話ですが、大阪駅前の交差点でのことでした。車と人に溢れた交差点に、盲導犬に引かれた女性がゆっくりと歩を進めています。しかし交差点を半分も行かないうちに、信号が赤になってしまった。車やバイクが一斉に動けば、彼女は巻き込まれてしまう。「危ない」と思わず叫ぼうとした矢先のことでした。私はその情景をこう記しました。
 〈車も行き交う人波も、すでにひっそりとその動きを止め、慌しい光景は一瞬静止画面になった。(略)静かに彼女を待つ人々がみな私と同じ気持ちであることを堅く信じた〉
 あの優しさに満ちた光景を私は忘れることができないのです。

◆日本文化を体感したい読者は増えている
 中国の若者は、日本にいかなる光景を見つけるのでしょうか。蘇編集長は言います。「明治時代、日本は西欧文化を取り込みながらも中国に繋がる伝統文化を保ち、現代性と融合させた。これから世界と向き合わねばならない中国にとって、お手本は日本だと思います。反日デモの最盛期には、日本を知りたいとは口に出来ない状況になり、私自身、“売国奴”と脅かされたこともありました。中国では、共産党もメディアも人々の思想を操ろうとします。判断するための情報がなければ、いとも簡単に流されてしまう。だから『知日』を読んで欲しい。そして、日本文化の強さ、普遍的価値を知ってほしいのです」。
 実際のところ、反日という声の大きさに比べて、私たちの雑誌などまだまだ小さい。しかし、『知日』を通じて、日本を知りたい、日本の文化を体感したいという読者は確実に存在し、増えていることに確信を持ちました。
(ニュース出所 文藝春秋 8月号)


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